師走某日、第二地区にて (GM:銀河)



 本編雑談

師走某日、第二地区にて

GM:日本某所・N市。
GM:その中の第二区画と呼ばれる場所に建つ集合住宅『なみかぜ』。
GM:日常の裏から迫り来た決戦が間近となり、冬の風がより一層厳しく感じられるある日。
GM:その、共有スペースにて───
羽鳥七海:「姫都さん。少し、お時間ありますか?」
姫都・幹久:「へ?」
姫都・幹久:エプロンを外して、洗った手をタオルで拭っている。いつもどおりのぼけた顔で振り向いて。
姫都・幹久:「はい、大丈夫ですよ。いろいろ片付きましたし」
姫都・幹久:「…みんな、きのうはしゃぎすぎたのか、今日は割と静かですし」弱めに笑って。
羽鳥七海:「はい、……えっと、消耗品の買い物……いえ、調査の……」
姫都・幹久:少し口ごもる七海さんの顔を見て、ちょっとだけ笑う。
姫都・幹久:「珍しいもの見た気分です。…気分転換に?」
羽鳥七海:いくらか言い淀んでいたが、やがて顔を上げる。
羽鳥七海:まっすぐに、姫都さんを見る。
羽鳥七海:「……姫都さんと、デートに行きたいです」
姫都・幹久:「喜んで」
姫都・幹久:「…というかこれ、おれのほうから切り出さないといけないやつでしたね」困った感じで笑って。
羽鳥七海:大きく息を一つ。けっこう、がんばったのだ。
羽鳥七海:「いえ。……嬉しいです。じゃあ、出かけましょうか」
姫都・幹久:「はい。七海さんは、どこか行きたいところ、ありますか?」
羽鳥七海:「……え。あ、ええと」そこまでは考えていなかった。
羽鳥七海:姫都さんとなら、どこでもよかっけれど、そういうのは無責任だと思う。
姫都・幹久:「…洗剤が切れてたのも本当なので、ちょっと歩きますけど」
姫都・幹久:「商店街の向こうに、見晴らしのいい公園あるんですよ。そこまで、どうですか?」
羽鳥七海:「は、はい」
羽鳥七海:「おねがいします」



 
GM:N市第二区画、公園。
羽鳥七海:「ふう……」 もう冬だ。マフラーにコート。冷える手を、白い息で温める。
姫都・幹久:ゆるい山道を、ゆっくり登っていく。植樹された並木は、さすがに葉が落ちたものばかり。
姫都・幹久:「あー…」少し考えて。
姫都・幹久:七海さんの手を握る。体温はかなり高い。
羽鳥七海:「!」
姫都・幹久:「……」困ったように笑って。「いいですか?」
羽鳥七海:びっくりして、反射的に手を引こうとして、……すぐに力を抜いて、握り返す。
羽鳥七海:「嬉しい」
姫都・幹久:「よかった」頷いて。「おれもです」
姫都・幹久:「……もう今年もあとちょっと、ですねえ。実家だと、クリスマスの後は少しだけ暇な時期なんですけど」
姫都・幹久:手を引いて、いくつかに別れた遊歩道を進む。普段の様子とは違って、迷わない。
羽鳥七海:「花屋、でしたか。クリスマスまでは忙しいでしょうね」
羽鳥七海:歩きながら、身を寄せる。
羽鳥七海:普段、意図的に詰め過ぎないようにしているが、それもない。
姫都・幹久:「毎年、ポインセチアとヒイラギは二度と見たくないって思…」距離が縮まって、驚きに言葉が止まる。
姫都・幹久:少し考えて。
姫都・幹久:「…何か、ありました?」
羽鳥七海:坂道から、街がよく見える。この町が
羽鳥七海:「そう、見えます?」
羽鳥七海:白い息を漏らしながら微笑む。「いつだって、こうしたいんですよ。本当は」
羽鳥七海:頭を傾け、肩に当てる。
姫都・幹久:「そう言ってもらえると嬉しいですけど。なんていうか…」
姫都・幹久:「…遠くへ行く前、みたいな感じだったもんで。ちょっとだけ」
羽鳥七海:「……敵わないですね。けっこう、意地悪してるのに」
羽鳥七海:「そうです。……怖くて」
姫都・幹久:「田舎暮らしだったもんで、よく見てるんですよ。引越し前の友達とか」
姫都・幹久:「……怖い、ですか」
羽鳥七海:「重い話をします。……聞きたくないですか?」
姫都・幹久:「そうですね…」少し考えて。「…七海さんが話せる範囲でなら」
羽鳥七海:「林藤さんと、田井中さんが……第二支部の方が」
姫都・幹久:黙って、手を少しだけ、指で覆う範囲が広くなるように握り直す。
羽鳥七海:「マスターエージェントと戦って。倒しはしましたが、行方不明と、凍結睡眠に」
姫都・幹久:「…田井中さんが」ため息のような息を吐く。「行方不明、というのは…」
羽鳥七海:「敵を追って異空間に飲み込まれたそうです」
羽鳥七海:「二人だけではなくて。平井さんやユウさん、阿修女……学校も」
羽鳥七海:「大きな……大きな事件に。因縁と戦っていて」
羽鳥七海:報告書も追い切れない。噂を、話を聞くたびに。身が冷えるような心地になる。
羽鳥七海:「そういう状況だってことは分かってるんです。……同僚がいなくなるのも、UGNなら、ないことじゃなくて」
羽鳥七海:「でも。今のうちに、触れておきたくて……私も、」 ──或いは貴方も。
姫都・幹久:「……はい」
羽鳥七海:「いつ、そうなるか、分からない……ですから」
姫都・幹久:「おれは……」
姫都・幹久:「おれは、最後まで立ってるのだけは得意ですから」
姫都・幹久:「七海さんがどこへ行っても、待ってますよ。ずっと」
羽鳥七海:「帰ってこられるか、わからなくても?」
姫都・幹久:「ええ」
羽鳥七海:「帰れなかったら、49日、喪に服してくれますか?」
羽鳥七海:早口。ちょっと混乱している。
姫都・幹久:「お骨が帰ってきたらですよ!」
羽鳥七海:「オーヴァードが帰還できない状況、ほぼ骨は帰って来ないですよ?!」
姫都・幹久:「ああ。そりゃそうで……いや、そういう話じゃなくて!」
姫都・幹久:「…亡くなったら、たくさん泣きますよ」
姫都・幹久:「できれば、生きて帰ってほしいです。これは正直に」
羽鳥七海:「……姫都さんは、森みたいですね」
姫都・幹久:「森、ですか」
羽鳥七海:前は、岩と例えたが。
羽鳥七海:「花を支える、緑の指……受け入れる大地」
姫都・幹久:「なんかこそばゆいですけど」弱めに笑って。「…でも、そういうことなら」
姫都・幹久:「みんな、元気に咲いててほしいと思いますよ」
羽鳥七海:「傷ついたもの、帰る場所がないもの、土台がない人たちを引き寄せて、受け入れて」
羽鳥七海:「……最近、人数が増えているのも」 ちょっと不機嫌そうに。
羽鳥七海:「そういう人たちが増えているから」
羽鳥七海:「なのかもしれません。というか、そういうことにしといてあげます、というか」
姫都・幹久:「……七海さんには、ほんとに、お世話かけっぱなしで」困ったように笑って。
姫都・幹久:「はい」
羽鳥七海:世界が終末に近づいているから。彼に引き寄せられるひとも多く。
羽鳥七海:「ほんとは、そこそこ安定した私より、そういう人たちを優先しなきゃいけないですから」
姫都・幹久:「おれが言ってもあんまり説得力ないかもしれませんけど…」
姫都・幹久:「優先とか、いやそりゃできちゃいますけど、考えたことなくて。それに」
姫都・幹久:「大変そうな人もほっとくのは、できないですよ」
姫都・幹久:手を握る。手を引く。
姫都・幹久:山の中腹。
姫都・幹久:「…これを見せたいな、と、おもいついたんです」
姫都・幹久:緑色の厚い葉を茂らせた木々が並ぶ一角がある。
姫都・幹久:いや、青々とした葉どころか、牡丹に似た、薄いピンク色の花が咲いている。
羽鳥七海:「……わあ……冬なのに、こんなに……」
姫都・幹久:「焚き火だ焚き火だ、って童謡あるじゃないですか。あれのやつです、サザンカ」
羽鳥七海:「山茶花。ああ……こんなに」
姫都・幹久:「ほんとは、冬にそこまで強い花じゃなかったのを、冬の季語だからって品種改良したらしいですよ」
姫都・幹久:「なんていうか、こう……」
姫都・幹久:「…おれにとって、七海さんは、信じられる人だから。だから」
姫都・幹久:「おれのわがまま聞いてもらってるぶん…」照れくさそうに笑って。「できれば、できるだけ、なりたいようになってほしいな…と」
羽鳥七海:「………、……」
姫都・幹久:「……七海さん?」
羽鳥七海:「……本当は、一つだけ」
羽鳥七海:「一つだけ、願いがあるんです。」
姫都・幹久:「…はい」
羽鳥七海:「でも、姫都さんには言いません。……言ったら叶わなくなるかもしれないから」
姫都・幹久:「ええっ」
羽鳥七海:「個人的なことなので。今は、そんな暇はないですしね」
姫都・幹久:「…やっぱり、忙しいんですね。みんなの様子見てて、わかりましたけど」
羽鳥七海:「『13人』を……『オーガン』のことが何とかできて、年末を越えたら、ひょっとして動けるかも」
姫都・幹久:「休める時間は休んでくださいよ。いつでも…」少し考えて。「準備はしてますから」
姫都・幹久:「…オーガン?」首をかしげる。「ええと、内臓?」
羽鳥七海:「え?」
羽鳥七海:その反応に、素の調子で振り返る。
姫都・幹久:「はい?」アホ面。
羽鳥七海:「え。聞いてないんですか。え? 道成寺さんやリミちゃん、小笠原さんは?」
羽鳥七海:アホ面を見ながら。「──ほ、本当に? えっ、ふっ、ふふっ」
姫都・幹久:「会ったときあんまり仕事の話しないので……え、大事件なんですかもしかして?」
姫都・幹久:「数が増えてるんじゃなくて?」
羽鳥七海:「ふふっ、あはははっ……」
羽鳥七海:困惑する姫都さんを尻目に笑いだす。
羽鳥七海:彼の能力を、未だに羽鳥は理解していない。そういうものだと思っている。
羽鳥七海:「……いえ。いえ、そのままでいいです。これも内緒ってことで」
羽鳥七海:『姫都幹久』が『それを知らないまま』であるということが、
羽鳥七海:……この場合、むしろ、何よりの福音のように思えるのだ。
姫都・幹久:「そんなぁ」情けない顔になって。
姫都・幹久:いつもどおりだ。…ほんとうに、いつもどおり。
羽鳥七海:「ええ、ええ。内緒です。……そろそろ帰りましょうか。一人占めもよくないですし」
羽鳥七海:すっと歩き始める。情けない顔で後ろから来る姫都さんを微笑みながら。
羽鳥七海:(──ひとつだけ。ひとつだけ、望みがある)
羽鳥七海:もりのようなひと。だいちのようなひと。うけいれるひと。花を支える、緑の手の主。
羽鳥七海:その彼に……
羽鳥七海:「(私を)」
羽鳥七海:「(もとめて、ほしい)」
羽鳥七海:贅沢な話だ。きっと途方もない話だ。
羽鳥七海:それでも。ほんの一瞬でいい、彼の指先から頭のてっぺんまで、私のことだけで満ちる瞬間があってほしい。
羽鳥七海:羽鳥家だ。傷を支える森の中で安住できる時間は、きっと長くはない。
羽鳥七海:だからこそ、それを一度でも達成できたら……きっと、この先もずっと、強く、剛く、生きていける。
羽鳥七海:そう思うから。
羽鳥七海:「──ほら、早く」  振り向いて、今までで一番の顔で笑う。
羽鳥七海:「おいてっちゃいますよ、幹久さん!」